赤い服の女
ずいぶん昔、もう40年以上も前の話。
「フロリダ」というダンスホールの仕事が終わり、アパートへの帰り道の公園の自動販売機で
冷たく冷えたグレープファンタを1本買う。
「美味しいねえ・・・」 と回し飲みした彼女は身長が高くハイヒールをはくと見上げるほど。
お客さんとの交際は一切禁じられていたので
今の表現では友人以上、恋人未満。
彼女の休みの日は、誰もいない部屋の掃除や洗濯fがしてあったりした。
食事は、当時発売されて美味しかった「チャルメラ」
ただ、それだけの関係だった。いやそう思いたかったのもしれない・・・。
やがて寒い冬が来た。帰ると冷え切った部屋にある日、
新しいストーブが置いてあった。
「ボーナスで買っちゃった」
当時の給料が3万円程度の頃の5000円のストーブだった。
田舎の母親が出てくるというので、暇があったら母の相手をしてほしいと頼んだ。
仕事が終わるまで面倒を見てくれた気のきく銀行勤めの赤い服の彼女は
母のお気に入りになった。
恋人関係にはなれなかったのはまだ初だったからだろう。
当時は自分の生活だけで精一杯で、人のことまで思いやる余裕がなかったのだろう・・・。
日豊線のガード下のアパートは間借りのようなもので、下の部屋には大家さん家族が住んでいた。
母からは「赤い服のお嬢さんは・・」と電話で様子を聞かれる。
2~3年後 「私、結婚することにしたから・・・・」と銀行と取引のある中央駅前の
大きな商店のお嫁さんになった。
その後女の子に恵まれ、幸せに暮らしていることを聞いていた。
20数年たって店の前を通ると目が合った。
「あらっ・・・・」 「うん・・・・・」 言葉は何も交わさなかったが、それで十分だった。
近くに治療室の分院を開くことを告げた。
「ちょっと待って・・・」と必要な日用品を手当たり次第に袋にいれながら
「これお祝いに・・・近いうちに行くね・・・」
それが・・・最後だった。
彼女は間もなくガンという病魔で逝った。
最近唄うカラオケに「ダンスパーティーの夜」がある。
…赤いドレスが よく似合う 君と二人で会ったのは
ダンスパーティーの夜だった・・・
by tenorsaxt | 2010-07-02 03:27